記憶

私は畳の上にひかれた布団の上で横たわっている。
敷き布団は厚く上質のものだ。
その肌触りも覚えている。
畳はまだ緑色が美しいが、
それがたたみ独特のにおいで部屋を満たしていたかは判らない。
布団の右手には一面に障子があり、
障子紙が昼の光で白く明るく見える。
その向こうには庭があると知っている。

頭側と左手の壁には一面にふすまがあり、
その上部には欄間がある。
欄間には御簾がかかっている。
豪奢なものではなく、
とてもシンプルな、それでいて上質のものだ。

足元の壁には廊下へ続くふすまがあり、
今、その向こうへと、
木の手桶を持った着物を着た人が歩み去ろうとしている。
その人が女性か男性かはわからないが、
私はその人に何か声をかけようとした。
が、かけられないまま、私は息絶えた。

私は男性であったと思う。
また、その場所はなぜか神社に関係する場所だったと思っている。

それが、私の前世の記憶と思われるものである。

私は時々、ふと思い出しては、
あの時、私はなんと声をかけたかったのであろうかと思う。

(「記憶 ②」に続く)


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